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1−9 苛立つアン

last update Last Updated: 2025-08-22 11:28:41

――その日の夕食の席でのこと

「何ですって!? ジェニファーに結婚の申込みが来たですって!?」

ジェニファーから手紙の話を聞かされたアンが興奮気味に声を荒げた。

「ジェニファー、結婚しちゃうの!?」

「ここを出ていっちゃうの?」

双子のトビーとマークが目を丸くする。

「何だよ、お前たち。ひょっとしてジェニファーがいなくなるのが寂しいのか?」

14歳になり、すっかり大人びたニックが二人に尋ねる。

「う、うん……」

「だって……」

サーシャが双子を窘めた。

「トビー。マーク。ここは、皆でおめでとうってジェニファーに伝えるのが筋なのよ? 今までこの家で頑張ってくれたジェニファーの幸せを祈ってあげなくちゃ」

「サーシャ姉ちゃんの言うとおりだ。今の俺達があるのは、ジェニファー姉ちゃんのおかげなんだからな」

その言葉に、ジェニファーが目をうるませる。

「サーシャ、ニック……ありがとう」

するとアンがヒステリックな声を上げた。

「何よ! また皆で寄って集って、ジェニファー、ジェニファーって! それは私に対する嫌味なの!?」

キッとアンがジェニファーを睨みつけてきた。

「ジェニファー。相手はどんな男性なの? 金持ち? 貴族なのかしら?」

「多分、貴族です。お金も……あるとは思いますけど……」

「ふ〜ん、お金持ちなのね。だったら我が家に資金援助をしてもらえるのかしら?」

「! それ……は……」

(結婚の申込みだけで、十分幸せなのに……資金援助の話をニコラスになんて出来ないわ……)

「何よ? それくらい、相手に尋ねること出来ないの?」

「母さん! いい加減にしてよ! ジェニファーまで兄さんと同じように売るつもりなの!?」

ついに我慢できずに、サーシャは叫んだ。

「売るですって? 人聞きの悪いこと言わないでちょうだい!」

「サーシャ姉ちゃんの言う通りだ! 母さんはザック兄ちゃんを売ったじゃないか! その金すら、あっという間に使い切ったくせに!」

「ニック! あんたまで何を言い出すの!」

一方、まだ小さいトビーとマークは何のことか分からずに首を傾げている。

「ね、ねぇ。落ち着いてサーシャ、ニック。それに叔母様も」

オロオロしながらジェニファーは3人を止めようとする。

「本当にこの家の者たちは皆気に入らないわ! 全員でジェニファーの肩を持つのだから……!」

ガタンと乱暴にアンが席を立った。
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  • 望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした   1−6 家の為に

    「ダン! 何処へ行くの!?」ジェニファーが慌てて声をかけると叔母が叱責した。「ジェニファーッ! ほうっておきなさい!」「ですが、叔母様……」「お前は本当の家族ではないのだから、口出しはおやめ!」「!」その言葉に、ジェニファーの肩がピクリとする。「酷いわ! 母さん! ジェニファーは私達の家族よ!」「そうだよ! ジェニファーは俺達の大切な家族だ!!」サーシャとニックが反論する。「! 全く、この家の子供たちは何だって反抗的なのよ! それが、お腹を痛めて産んだ母親に対する態度なの!」「だったら、少しは母親らしい態度を取ったらどうなの! ジェニファーのほうが余程私達の母親らしいわよ!」「サーシャ……」その言葉にジェニファーが目を見開く。「な、何よ……皆して、口を開けばジェニファー、ジェニファーって……本当に面白くないわ!」アンは乱暴に言い放つと、部屋を出ていってしまった。その様子を目の当たりにしたジェニファーは自分を激しく責めていた。(どうしよう、叔母様を怒らせてしまったわ……私がもっと稼げればこんなことには……)すると……。「大丈夫、ジェニファーは何も悪くないわ。悪いのは全て母さんよ。働きもしないで、文句言う資格はないわ」「うん。俺もそう思う。ジェニファーは大切な家族だよ」サーシャとニックが声をかけてきた。「「僕達、ジェニファーが大好きだよ」」双子のトビーとマークが頷く。「ありがとう、皆。私、ダンを探してくるわ。多分外に出て行ったと思うから」それだけ告げると、ジェニファーはダンを追って外へ出た。 外へ出ると、夜空には満天の星が輝いていた。ブルック家は高台にあるので、夜空を隠すような建物が無いのでくっきりと見えた。「……綺麗な夜空。あ、そんな呑気なこと言ってる場合じゃなかったわ。ダンを捜さなくちゃ!」ジェニファーは月明りを頼りに、ダンの姿を捜し回った。「ダーンッ! 何処なの!?」呼びかけながら周囲を見渡すも、姿は見えない。「まさか、町に向ったのかしら……?」けれど、真面目なダンは夜に町へ遊びに行ったことは一度も無い。「困ったわ……あら」そのとき、月明かりに照らされて岩の上に背を向けて座っている人物が見えた。「あの後ろ姿……ダンね」そこでジェニファーは岩に近付き、声をかけた。「ダン」「え? ……ジェニ

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